メガネのこと

メガネがずり落ちる。調整で直る範囲と、形の問題

下を向いたときにずるっと落ちる。話しているうちに気づけば鼻の下のほうにある。一日に何十回と、無意識で指を伸ばして押し上げている。この「上げ直す動作」は本人が思っている以上に体力を使いますし、人前ではあまり格好のいいものでもありません。

この記事では、メガネがずり落ちる原因を「鼻あての位置」「テンプル(つる)の耳への当たり」「フレームの重心」の3層に分けて、どこまでが店の調整で直せて、どこからはフレームの形そのものを見直したほうがいい話なのか、その線引きをお伝えします。

ずり落ちる原因は、3つの層に分かれている

メガネは、鼻と両耳の3点で顔にのっています。ずり落ちるというのは、この3点のどこかで「支えきれていない」か「前に引っぱる力が強すぎる」かのどちらかです。

整理すると、原因はだいたい次の3層のどれかに入ります。

  1. 鼻あての層 ―― 鼻あてが鼻の斜面をつかめていない。開きすぎ、あるいは鼻の低い位置に当たっていて、下に滑る
  2. テンプルの層 ―― 耳の後ろでの曲がりが浅い、または位置がずれていて、後ろから引き止める力が効いていない
  3. 重心の層 ―― レンズが厚い、フレームが大きい、素材が重いなどで、前側が重すぎる

順番が大事です。1と2は多くの場合、店の調整で改善する余地があります。3は調整だけでは追いつかないことがあり、フレームやレンズの選び方の話になります。

自分のメガネがどの層なのかを、いきなり店で聞く前に、家でもある程度あたりをつけられます。次の見出しから順に見ていきます。

第1層:鼻あては「幅」より「高さ」を見る

ずり落ちる相談でいちばん多いのが、鼻あての当たる位置です。鼻の斜面は、上に行くほど狭くて急、下に行くほど広くてなだらかになっています。なだらかな下のほうで支えていると、当然すべります。

鏡の前で確かめてほしいのは、次の2点です。

その1:鼻あてが鼻のどのあたりに乗っているか。 目頭の高さより明らかに下にあるなら、そもそも支える位置が低すぎます。掛け直した直後の位置ではなく、しばらく普通にしていて落ち着いた位置を見てください。

その2:鼻あてのパッドが、面で当たっているか点で当たっているか。 鼻の斜面とパッドの角度が合っていないと、パッドの端だけが当たります。この状態は摩擦が少なく、汗をかいた瞬間に一気に落ちます。

この2点は、金属のクリングス(鼻あてを支える細い腕)が付いたフレームなら、店の調整で動かせる範囲がかなりあります。パッドの幅、高さ、角度、前後の位置。それぞれ独立して調整できるので、「もう少し高い位置で支える」「斜面に沿わせる」といった詰め方ができます。

ただし、鼻あてが一体成型されたプラスチックのフレーム(鼻の部分がフレームと一続きになっているタイプ)は、この調整幅がほとんどありません。温めて多少形を変えられる場合もありますが、限界があります。一体型で落ちる場合は、鼻の部分の形が顔と合っていないと考えたほうが早いことが多いです。

第2層:テンプルは「締める」ではなく「引っかける」

次はつるです。「ゆるいから落ちる、締めれば止まる」と思われがちですが、こめかみを強く締めても、ずり落ちはあまり止まりません。締めれば止まるのは横ずれで、下向きの動きを止めるのは、耳の後ろでの引っかかりです。

見るべきは、テンプルが耳の上を通って、どこから下に曲がっているかです。

  • 曲がり始めが耳より手前にあると、耳の上に乗り上げてしまい、下に落ちる力を受け止められません
  • 曲がり始めが耳よりすぎると、耳の後ろで浮いてしまい、これも引き止めになりません
  • 曲がりが浅い(ゆるいカーブ)と、前に引かれたときにするっと抜けます

理想は、曲がり始めが耳のつけ根のちょうど手前にあって、耳の後ろの骨のくぼみに沿って下りていること。ここが合うと、こめかみをきつく締めなくてもメガネが落ちなくなります。

もうひとつ、左右差にも触れておきます。耳の高さは左右で違う人が珍しくありません。テンプルの曲げ位置が左右同じだと、片側だけが効いて、メガネが斜めになりながら落ちていきます。「いつも右下がりになる」といった症状があるなら、左右差の調整で変わることがあります。

この層も、金属・チタン・アセテートを問わず、店で調整できる範囲が比較的広い場所です。ずり落ちの相談でまず触るのは、鼻あてとこの耳の後ろだと思ってください。

第3層:重心の問題は、調整では追いつかないことがある

ここからが線引きです。鼻あてとテンプルを整えても落ちる場合、フレーム全体の重心が前に寄りすぎている可能性があります。

重心が前に寄る要因は、主に3つ。

レンズの厚み。 度数が強いほどレンズは厚く重くなります。特に近視の強い方は、レンズの縁が厚くなり、フレームの外周に重さが集まります。レンズが大きいフレームほど、この影響は大きくなります。

フレームの前面の大きさ。 大きなレンズ、太いフチ、装飾のあるフロント。デザインとして魅力的でも、重さは前に集まります。

テンプルとの重量バランス。 前面が重く、つるが細く軽い組み合わせは、てこの原理で前に倒れやすくなります。

前が重いメガネは、支える力を強くするか、前を軽くするかの二択です。前者は鼻とこめかみへの負担を増やすことになり、今度は痛みや跡の問題に変わります。つまり、調整で「落ちなくはできるが、快適ではなくなる」状態が起こりうる。ここが、調整の限界です。

買い替えを検討する段階なら、確かめてほしいのは次のあたりです。

  • レンズの薄型化で、どのくらい軽くできそうか(度数によって効き方は変わります)
  • レンズの大きさを一回り小さくできないか。縦幅が数ミリ違うだけで厚みと重さは変わります
  • テンプルに適度な重さ・厚みがあるものにして、前後のバランスを取れないか
  • 鼻あてを調整できる構造になっているか(クリングス付きかどうか)

ちなみに、鼻あて自体を別のタイプに交換するという手もあります。素材や形状を変えることで、滑りにくさや当たり方が変わることがあります。今のフレームを気に入っているなら、買い替える前に相談してみる価値のある選択肢です。

うまくいかないこと、店の役割ではないこと

正直に書いておきます。調整ですべてが解決するわけではありません。

汗や皮脂が多い季節は、どう調整しても滑りやすくなります。 鼻の脂は摩擦を一気に下げます。これは調整の精度の問題ではなく、条件の問題です。こまめに洗う、汗を拭くといった対応と組み合わせるしかありません。

マスクの着脱、頻繁な上げ下げなど、動作そのものが原因のこともあります。 一日に何度もメガネを外す使い方だと、そのたびにテンプルの位置は少しずつずれます。定期的に見てもらうのが現実的な対処になります。

フレームによっては、調整の余地がほとんどないものもあります。 素材の性質上、無理に曲げると破損のおそれがある場合、店としては「これ以上は触らないほうがいい」とお伝えすることになります。できないことを黙って引き受けないのも、預かる側の役目だと思っています。

そしてもうひとつ、はっきり線を引いておきたいことがあります。目の疲れやかすみ、頭痛といった体の不調は、メガネの調整の話ではありません。 眼の症状や病気は眼科医の領域です。メガネ店でできるのは、見え方についてのご相談と、メガネそのものの調整・作製まで。気になる症状があるときは、まず眼科を受診してください。順番を間違えないほうが、結果として早く落ち着きます。

判断の順番と、店で確かめられること

最後に、迷ったときの順番をまとめます。

  1. 鏡で、鼻あての位置と当たり方を見る。 目頭より明らかに低い位置で支えていないか
  2. テンプルの曲がり始めが、耳のつけ根に来ているかを見る。 左右で違っていないかも
  3. 1と2に心当たりがあるなら、まず調整を相談する。 ここで直るケースは少なくありません
  4. 調整しても落ちる、あるいは落ちないようにすると痛い。 この段階で初めて、重心=フレームやレンズの選び直しを検討する
  5. 買い替えるなら、レンズの大きさと厚み、鼻あての構造を先に確認する

注意してほしいのは、自分でテンプルを曲げようとしないことです。金属は思ったより粘りがなく、一度ねじれた部分は元に戻りません。プラスチック系は温めずに力を加えると割れます。「ちょっと広げるだけ」で使えなくなってしまうケースを、売場でも見てきました。

こうしたことは、文章で読むより実際にかけている状態を横から見てもらうほうが早く進みます。落ちる瞬間の姿勢、耳の後ろの当たり方、前後の重さの感じ方は、その場で確かめられることばかりです。HAUSのメガネ売場には一級眼鏡作製技能士が常駐していますので、他店でお作りになったメガネでも、まずは今の状態を見るところからご相談ください。調整で済むのか、形を見直したほうがいいのか。その線引きだけでも、はっきりすると次の一手が決めやすくなります。

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