メガネのこと

遠近両用メガネの選び方は「距離の時間割」から始める

手元の文字がなんとなく見づらい。少し離すとよく見える。そろそろ遠近両用かな、と思って調べはじめたら、レンズの設計だとか累進帯の長さだとか、いきなり難しい言葉が並んでいて手が止まった――そんな方は少なくありません。

この記事でお伝えしたいのは、遠近両用メガネの選び方は「レンズの種類を覚えること」から始めなくていい、ということです。最初にやるのは、自分が一日のうちどの距離を何時間見ているかを書き出す作業。ここが決まっていないと、どんなに高性能なレンズを選んでも「なんだか合わない」で終わってしまいます。

まず、レンズより先に「距離の時間割」を書き出す

紙でもスマホのメモでも構いません。昨日一日を思い出して、次の4つの距離にざっくり時間を割り振ってみてください。合計が起きている時間と大きくずれていても気にしなくて大丈夫です。

  • 手元(30〜40cm):スマホ、本、書類、料理の手元、裁縫、爪切り
  • パソコン(50〜70cm):デスクトップの画面、ノートPC、卓上の作業
  • 室内(1〜3m):家族の顔、テレビ、店の棚、会議中の相手、床の段差
  • 遠く(5m以上):運転、屋外の看板、風景、スポーツ観戦

書き出してみると、たいてい偏りが出ます。デスクワークの方は「パソコン6時間・手元2時間・室内2時間・遠く30分」。営業や配送の方は「遠く4時間・室内3時間・手元1時間」。家事が中心の方は「手元3時間・室内5時間」。この偏りが、そのままレンズ選びの設計図になります。

ポイントは、時間の長い距離ほど「ラクに見えてほしい」距離だということ。逆に、短い時間なら少し首を動かしたり、目線を送ったりする手間があっても、意外と気になりません。遠近両用は「全部の距離が同じようによく見えるメガネ」ではなく、どこを優先するかを決めて配分するメガネです。ここを最初に理解しておくと、後の判断がぐっと楽になります。

4つの距離に順位をつける。1位と2位まで決めれば十分

時間を書き出したら、次は順位づけです。ただし4つ全部に順番をつけようとすると迷うので、**「絶対に譲れない1位」と「できれば譲りたくない2位」**の二つだけ決めてください。

決め方のコツは、時間の長さだけでなく「そこで不便だと困る度合い」も足して考えることです。たとえば運転は一日30分でも、見づらいと困りますから優先度は上がります。逆に、スマホは長時間見ていても「持つ距離を自分で変えられる」ので、少し融通が利く距離です。

もうひとつ、順位を決めるときに考えておきたいのが**「そのとき体はどんな姿勢か」**。座って画面を見上げるのか、立って下を向くのか、車で前方をまっすぐ見るのか。遠近両用のレンズは、上のほうが遠く、下のほうが手元用になっているものが一般的なので、姿勢と視線の向きが合っているかどうかで使い勝手が変わります。「キッチンで上の棚を見上げるとぼやける」「デスクで画面を見るのに顎を上げてしまう」といったつまずきは、姿勢の情報が抜けたまま作ったときに起きやすいものです。

順位が決まったら、それをそのまま言葉にしてお店で伝えてください。「パソコンが一番長くて、次が室内。運転は週末だけ」。この一文があるだけで、提案できる中身がまるで変わります。

「一本で全部」をあきらめると、選択肢が増える

初めて遠近両用を作る方が最もつまずきやすいのが、一本にすべてを詰め込もうとすることです。手元も画面も室内も運転も、全部きっちり――と欲張ると、どの距離も少しずつ妥協した、器用貧乏な一本になりがちです。

ここで知っておくと視野が広がるのが、「デスクワーク寄りに振った一本」という考え方。手元からせいぜい室内くらいまでを広く見られるようにして、遠くは思い切って譲る。運転は別のメガネで、と割り切る発想です。当店では「ミドルのための遠近レンズ」としてこうしたご相談もお受けしていますが、大事なのは商品名ではなく、用途を絞ると一つひとつの距離が快適になるという考え方そのものです。

一本で通したい方も、もちろんいます。掛け替えが面倒、持ち歩きたくない、という事情は立派な判断材料です。その場合は「1位の距離を最優先して、2位以下は多少の首の動きで補う」という前提で作ることになります。どちらが正解ということはなく、生活のどこに手間を置くかの選択です。

うまくいかないこともある、と先に知っておく

正直にお伝えしておきたいことがあります。遠近両用は、掛けはじめに慣れが必要なタイプのメガネです。視線を動かしたときに周辺が少し揺れて感じられたり、足元の距離感がつかみにくく感じられたりすることがあります。多くの方は日常のなかで徐々に慣れていきますが、慣れ方には個人差があり、どうしても合わないと感じる方もいます。「誰でもすぐ快適になります」とは申し上げられません。

また、階段や段差の多い場所、脚立に上がる作業などでは、慣れるまでとくに慎重に足元を確認していただきたいところです。

そしてこれはいちばん大事なことですが、見えにくさの原因が目そのものにある場合、メガネでは解決できません。急に見えづらくなった、片目だけおかしい、視界の一部が欠ける、まぶしさや痛みが続く、といったときは、まず眼科を受診してください。目の症状や病気の診断・治療は眼科医の領域です。私たちがお手伝いできるのは、見え方についてのご相談と、メガネの設計・調整まで。この線引きははっきりさせておきたいと思っています。

決める順番のまとめと、お店での確かめ方

最後に、選び方の順番を整理します。

  1. 4つの距離(手元・パソコン・室内・遠く)に一日の時間を割り振る
  2. 譲れない1位と、できれば譲りたくない2位を決める
  3. その距離を見るときの姿勢と視線の向きをメモしておく
  4. 一本で通すか、用途を絞るかを決める
  5. ここまでを伝えたうえで、レンズと度数の話に入る

レンズの話は5番目です。逆から入ると、言葉の意味を追うだけで疲れてしまいます。

そのうえで、最後の詰めはどうしても実物が必要になります。同じレンズでも、フレームの大きさや、目とレンズの距離、傾き、鼻あての位置で見える範囲は変わります。実際にかけて、いつもの姿勢をとってみて、視線を上下に動かしてみる。この確認は、画面の上ではできません。掛けたあとで「もう少し下を見やすくしたい」となったときも、その場で角度や鼻あてを触りながら合わせていけるのが、店頭で作る利点だと思っています。

HAUSのメガネ売場には一級眼鏡作製技能士が常駐していて、検眼も遠近両用の検査も無料でお受けしています。まだ作ると決めていない段階でも、「距離の時間割」のメモだけ持って様子を見に来ていただくくらいで十分です。順番が決まっていれば、そこから先の話は落ち着いて進められます。

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